日本の製造業では深刻な人材不足が続いており、その対策として創設されたのが「特定技能」の在留資格です。本記事では、特定技能制度の概要から、「産業機械製造業」分野での外国人材の雇用方法、業務内容、評価試験の詳細、必要な日本語能力、受入れ企業の要件までを包括的に解説します。
特定技能「産業機械製造業」の制度概要と背景
製造業における人材不足の現状
日本の製造業は長年「モノづくり」の強みで国際競争力を保ってきましたが、近年は少子高齢化の影響で深刻な労働力不足に直面しています。特に産業機械製造業では、高度な技術を要する現場作業員やオペレーターの求人に対し、十分な人材を確保できない状況が続いています。経済産業省の推計によると、この分野での人手不足は今後数万人規模にまで拡大する可能性があるとされています。
特定技能制度創設の目的
こうした労働市場の逼迫を受けて、2019年に新たに創設されたのが「特定技能」という在留資格です。この制度は、即戦力となる外国人材を受け入れることを目的とし、特定の分野に限定して外国人の就労を認めるものです。特定技能制度の導入により、産業機械製造業でも外国人の採用・雇用が可能となりました。
統合された製造業3分野の中の「産業機械製造業」
分野統合による制度の再編成
当初は14の個別分野に分かれていた特定技能制度ですが、2022年に製造関連の3分野(素形材産業、産業機械製造、電気・電子情報関連産業)が統合され、「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」分野として再編成されました。これにより、より実態に即した形で外国人材を受け入れることが可能となりました。
産業機械製造業の対象業務とは
「産業機械製造業」は、建設機械や農業機械、工作機械などの製造を担う分野で、日本のインフラや生産設備を支える基幹産業です。この分野の業務は高い技能と専門性を要するため、即戦力となる外国人材の存在が不可欠となっています。
特定技能1号と2号の違いと特徴
特定技能制度には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つの在留資格があり、外国人が従事できる業務内容や在留期間、支援体制などに違いがあります。
| 項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 在留期間 | 最大5年(更新制) | 制限なし(更新制) |
| 技能水準 | 一定の実務経験を要する技能 | 熟練した専門的な技能 |
| 日本語能力 | JLPT N4以上または同等の基礎試験合格 | 原則不要 |
| 家族帯同 | 不可 | 一定条件で可能 |
| 支援体制 | 受入れ機関または登録支援機関の支援対象 | 支援対象外 |
| 雇用見込数 | 制限あり | 制限なし |
産業機械製造業で行える具体的な業務内容
技能レベルに応じた幅広い業務が可能
特定技能「産業機械製造業」分野で外国人材が従事できる業務は以下の通りです。どれも現場作業に直結した専門的な工程であり、企業にとっては即戦力となる重要なポジションです。
主要業務の一部紹介
- 鋳造・鍛造・ダイカスト:金属の加工による部品製造
- 機械加工・鉄工・板金加工:切削や曲げ加工を用いた精密部品の製作
- 電子機器・電気機器組立て:製品組立や検査、調整
- 溶接・塗装・めっき:表面処理や部品の接合
- 機械検査・保全・仕上げ:製品の品質保証やメンテナンス
特定技能1号を取得する方法と評価試験の詳細
評価試験に合格することで取得可能
外国人材が特定技能1号を取得するには、該当する分野の評価試験に合格することが基本条件です。産業機械製造業では、「製造分野特定技能1号評価試験」に合格する必要があります。
試験内容と実施概要
- 実施機関:経済産業省
- 試験構成:学科試験と実技試験
- 試験対象業務:鋳造、機械加工、溶接など全19業務区分
- 試験実施国:インドネシア、フィリピンなど(国内実施もあり)
- 試験言語:受験国の現地語
日本語試験の要件
特定技能1号の取得には、日本語での業務遂行が可能な能力を証明する必要があります。以下のいずれかの試験合格が条件です。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金日本語基礎テスト
これらの試験は年2回〜5回程度実施されており、応募者は早めに試験スケジュールを確認して準備する必要があります。
技能実習2号からの移行で試験免除も可能
実務経験者にとってのスムーズな選択肢
既に「技能実習2号」を修了している外国人材は、同一分野であれば評価試験を受けることなく、特定技能1号へ移行することが可能です。これは実務経験者のスキルを評価した制度であり、スムーズな移行によって即戦力の確保が期待されます。
外国人材を特定技能で雇用する企業の要件
外国人材を「特定技能」で受け入れる企業には、一定の条件と義務があります。特定技能の求人を検討している企業は、以下の点を確認する必要があります。
対象業種であることが前提条件
企業の事業内容が、日本標準産業分類における製造業(産業機械関連)に該当している必要があります。これに該当しない場合、特定技能外国人の雇用はできません。
支援体制の整備または登録支援機関の活用
受入れ企業には、日本語教育や生活支援などを行う体制の整備が義務付けられています。対応が困難な場合は、外部の登録支援機関に委託することも可能です。登録支援機関の選定は慎重に行いましょう。
特定技能協議会への事前加入が必要
他分野と異なり、「産業機械製造業」では外国人を受け入れる前に「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」への加入が義務となっています。加入手続きには数カ月を要することもあるため、早めの申請が重要です。
今後の制度運用と注意点
人数上限を超えると一時停止の可能性も
制度運用上、受入れ可能な外国人数には上限が設定されている場合があります。実際、2022年には産業機械製造業分野で上限を超えたため、新規の在留資格認定証明書の交付が一時停止されました。企業は最新の受入れ状況に常に注意を払う必要があります。
試験スケジュールと合格者数の動向に注目
評価試験の実施回数や受験者数、合格率は年ごとに変動があるため、採用計画を立てる際には公式情報のチェックが不可欠です。
まとめ
古くから「モノづくり」が盛んな日本において、産業機械製造業はいわば「縁の下の力持ち」といえる産業です。
少子化や高齢化の影響により、このまま人材不足が進めば日本のさまざまな産業は衰退し、国際的な競争力を失ってしまうかもしれません。日本の未来のためにも、産業機械製造業における外国人材の採用を検討してみてはいかがでしょうか。
