特定技能「農業」は、日本の農業分野における深刻な人手不足を背景に導入された在留資格制度で、即戦力となる外国人材の受け入れを目的としています。
本記事では、受け入れ可能な人材の条件、任せられる業務内容、受入れ企業の要件、雇用形態、報酬、転職、試験制度などを詳しく解説し、求人・雇用を検討する事業者に必要な情報を網羅的に提供します。
特定技能「農業」とは何か?
2019年4月に出入国管理法が改正され、新設された「特定技能」は、外国人労働者を即戦力として受け入れる制度です。農業分野では、慢性的な人手不足と高齢化が深刻な問題となっており、特定技能人材の受け入れが課題解決の一助と期待されています。
農業分野の外国人就業者は年々増加しており、今後も増加傾向が見込まれています。特定技能制度は、技能実習制度に比べてより実務的な労働力供給を目的としており、長期的な雇用が可能です。
農業分野における雇用の現状と課題
高齢化と労働力不足
農業従事者の多くが高齢化しており、若年層の就業率は非常に低い状況です。後継者不足に加え、農業の重労働性や収入の不安定さが、新規参入を難しくしています。このため、農業分野の有効求人倍率は高水準を維持しています。
高コスト構造と新規参入の障壁
農業は初期投資が大きく、機械や土地のコストも高いため、新たに農業を始めるのが難しい構造です。特に天候に左右されやすく、安定収入を得ることが困難な点も、労働者の確保を難しくしています。
受け入れ可能な人材と在留資格
特定技能1号の概要
農業分野で受け入れ可能なのは「特定技能1号」の在留資格です。対象者は健康な18歳以上で、日本語および農業技能の試験に合格していることが条件です。技能実習2号を良好に修了した者も対象となります。
在留資格取得の方法
特定技能資格は以下のいずれかの方法で取得が可能です。
- 国内留学生への資格取得支援
- 技能実習2号からの移行
- 海外での技能試験・日本語試験の合格
- 短期来日による試験受験
これらの方法を通じて、事業者は必要な時期に応じて柔軟に外国人材を雇用することができます。
任せられる業種・業務の範囲
主な業務内容
農業分野で特定技能人材が従事できる業務は以下の通りです。
- 耕種農業:栽培管理、収穫、出荷、選別など
- 畜産農業:飼養管理、出荷、選別など
業務には必ず「栽培管理」または「飼養管理」が含まれている必要があります。加工・運搬・販売といった関連業務への従事は可能ですが、これらが主業務となることは認められていません。
特定技能所属機関(受入れ企業)の要件
法令遵守と体制整備が必須
特定技能人材を受け入れる法人は、労働・社会保険法令の遵守や過去の労務トラブルがないことなど、多くの要件を満たす必要があります。また、農業分野特有の条件として「農業特定技能協議会」への加盟が義務付けられています。
加盟は、受け入れ後4か月以内に行い、その後も協議会との連携や支援機関の選定などが必要です。制度運用の透明性と労働者保護が重視されています。
雇用形態の特徴:直接雇用と派遣の併用可
農業分野では、特定技能人材の受け入れにおいて、直接雇用と派遣の両方が認められています。これは農閑期に仕事がない場合でも、派遣という形で雇用の継続性を確保するためです。
派遣を行うためには、派遣事業者が農業に関する業務実績を持ち、かつ適正な管理体制を有している必要があります。違反歴のある事業者や管理体制が不十分な事業者は、派遣先として不適格と判断されます。
報酬の基準と転職の可否
報酬水準
特定技能外国人の報酬は、日本人の同等業務に従事する労働者と同等以上でなければなりません。最低賃金の遵守はもちろん、地域や職種によっては高い報酬水準が求められるケースもあります。
転職の制限
特定技能人材の転職は、同一業種内または技能レベルが共通する業務内でのみ認められています。農業分野で在留資格を得た人材が、他業種へ転職することはできません。また、副業やアルバイトも禁止されています。
特定技能「農業」の試験制度
試験内容
資格取得には以下の試験合格が必要です。
- 農業技能測定試験:耕種または畜産に関する基礎知識と実技試験
- 日本語試験(JLPT N4程度):日常会話レベルの日本語能力を証明
技能試験は国内外で実施されており、試験日程や開催地は農業技能試験公式サイトで随時確認可能です。
試験準備用教材
農業技能試験の公式サイトでは、無料の学習教材がダウンロード可能です。栽培方法や農機の扱い、作業工程の基礎など、広範な知識を身につけることができます。
求人・雇用の成功に向けて
特定技能「農業」は、受け入れる企業側にも法令遵守や協議会への対応など高い責任が求められる制度です。しかし、適切な準備を行えば、安定した労働力の確保と農業経営の持続的発展が可能になります。
求人を出す際は、業務内容や雇用形態を明確にし、候補者が安心して応募できる環境づくりが求められます。人材会社や登録支援機関の活用も有効です。
