日本における深刻な人材不足に対応するため創設された「特定技能制度」では、即戦力となる外国人材の受け入れが可能となりました。しかし、特定技能外国人を「派遣契約」で雇用できるケースは限定されており、対応を誤ると法令違反につながるリスクもあります。
本記事では、派遣契約が認められる産業分野、派遣元・派遣先に求められる要件、労働者派遣法の制限、実務上の注意点などを詳しく解説します。
特定技能外国人の雇用には在留資格の理解が不可欠
日本で外国人を雇用する場合、在留資格に基づいて就労の可否が決まります。就労可能な在留資格のひとつが「特定技能」です。企業が求人を出す際には、この資格を有する人材でなければ法的に雇用できません。
特定技能は、人手不足が深刻な分野に限り、一定の技能・日本語能力を持つ外国人を雇用できる制度です。特に「1号」は最大5年間の在留が可能で、即戦力となる人材を比較的短期間で確保できます。
特定技能外国人の受け入れが可能な16の産業分野
現在、特定技能制度で受け入れが認められている産業分野は以下のとおりです。
- 介護
- ビルクリーニング
- 製造業(素形材、産業機械、電気電子情報)
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 自動車運送業
- 鉄道
- 林業
- 木材産業
これらのうち、「農業」と「漁業」だけが、特定技能外国人の派遣契約による雇用が例外的に認められています。
農業・漁業で派遣契約が可能な背景とは
繁忙期と閑散期の差が大きい季節産業であること
農業と漁業は、年間を通して一定の労働力が必要なわけではなく、収穫や水揚げの時期に集中して人手不足となる「季節産業」に該当します。そのため、フルタイムの直接雇用ではなく、短期間だけ雇用できる派遣契約のニーズが高いのです。
このような事情を踏まえ、政府は特定技能外国人についても、この2分野に限って労働者派遣契約による雇用を認めています。
特定技能外国人を派遣で雇用するための条件と制度上のルール
派遣元事業者に求められる基準
派遣元企業が求人を行うには、以下のような厳格な条件を満たす必要があります。
- 該当する産業分野(農業または漁業)の業務に実質的に関与していること
- 資本金の過半数を出資していること
- 業務執行に実質的に携わっている役員を有していること
- 農業分野の場合、国家戦略特別区域における「特定機関」に指定されていること
派遣先企業に課される要件
派遣先企業も以下の基準を満たしていなければ、特定技能外国人を派遣契約で受け入れることはできません。
- 労働基準法、社会保険、租税法等の法令を遵守していること
- 過去1年間に同種の業務に従事していた労働者を不当な理由で解雇していないこと
- 行方不明者などのトラブルを過去1年以内に発生させていないこと
- 刑事罰を受けるような重大な法令違反がないこと
これらの条件は、外国人の雇用にあたっての信頼性やコンプライアンスを確保するために設けられています。
派遣契約での雇用に適用される労働者派遣法の制限
派遣期間には「3年ルール」が適用される
労働者派遣法では、同じ事業所への派遣は最長3年間に制限されています。特定技能1号の在留期間が最大5年である点と異なるため、派遣契約で雇用する場合は、3年を超える勤務ができないことに注意が必要です。
派遣地域には地理的な制約もある
労働者派遣法では、派遣元が苦情処理や指導に対応できるよう、派遣先が「日帰り可能な範囲」に限定されていることも重要なポイントです。遠隔地での派遣には対応できないため、地域ごとの人材供給体制を工夫する必要があります。
協議会への加盟と実務上の注意点
農林水産省所管の協議会への参加が義務
特定技能外国人を雇用するには、対象分野ごとに設けられている協議会への加盟が必要です。派遣契約の場合も、派遣元企業が農業・漁業を所管する農林水産省の協議会へ加入しなければなりません。
一方、派遣先企業は、協議会からの求めに応じて資料の提出や説明対応を行う義務があります。これにより制度全体の透明性が確保されています。
労働条件と支援体制の整備も重要
派遣であっても、特定技能外国人には「適正な労働条件」と「生活支援計画の実施」が求められます。とくに1号では、受け入れ側(この場合は派遣元)が定められた支援を実施する必要があります。
まとめ
特定技能外国人の派遣契約による雇用は、原則として農業と漁業のみに限定され、制度上の例外として扱われています。企業がこの制度を活用して求人を行う場合は、特定技能制度に加え、労働者派遣法の規定や協議会への参加義務など、多岐にわたる法令を理解し、厳格に運用する必要があります。
特定技能制度の正しい理解と実務対応を行うことで、企業は即戦力となる外国人材を安定的に確保でき、人手不足への対応策として大きな効果を発揮します。派遣による雇用を検討する際は、制度の詳細と法令遵守を前提に、長期的な視点での人材戦略を立てることが重要です。
