外国人経営者が知っておかなければならない日本の社会保険制度

外国人の起業

医療保険と年金保険の社会保障制度

外国人が日本で働く場合、健康保険と厚生年金保険に加入する必要があります。健康保険は、医療費を補助するための保険であり、厚生年金保険は、年金を受け取るための保険です。日本に住んでいるすべての人は、原則として公的な健康(医療)保険に加入しなければなりません。

社会保険制度

社会保険は保険方式で国が運営し、事故が発生した場合保険給付を行い、被保険者とその被扶養者や遺族の生活を保障する制度です。

社会保険は、保険方式で国が運営し、疾病、負傷、死亡、出産、老齢、障害などの理由から事故が発生した場合、保険給付を行い被保険者とその被扶養者や遺族の生活を保障する制度です。

社会保険という場合、労働保険を含む広義の社会保険と労働保険を含まない狭義の社会保険があります。

日本の社会保険

社会保険は保険の仕組みで事故に対する給付を行う制度です。

社会保険は保険の仕組みで事故に対する給付を行う制度です。個人では救済しきれない経済的損失に対し国で救済するという目的を持ちます。

医療保険制度は、国民健康保険が制定、普及し国民皆保険制度が確立されました。年金保険制度は全国民が対象とされる国民年金が制定・普及し国民皆年金が制度化されています。高齢化の進展で平成12年に介護保険法が施行、高齢者が介護の必要な状態となったときに介護サービスが受けられる体制ができました。社会保険の財源は国庫負担金もありますが、保険料で賄われ、医療保険や介護保険の場合、被保険者等が支払う一部負担金もあります。

社会保険では被保険者本人だけでなく事業主も負担しています。

全国民共通の国民年金

20歳以上60歳未満の国民全員は、公的年金制度に加入します。

公的年金制度は国民年金を全国民共通の基礎年金部分として厚生年金保険などの被用者年金は、基礎年金部分に上乗せし報酬比例部分とする2階建の年金給付の仕組みとなっています。

会社を設立せず、個人事業主として起業した20歳以上60歳未満の外国人は、厚生年金保険には加入せずに国民年金の第1号被保険者となり、会社を設立し起業した外国人は、国民年金の第2号被保険者となります。

第2号被保険者の配偶者は、健康保険の被扶養者として認定される基準に満たない収入で第2号被扶養者に生計を維持される場合、第3号被保険者として国民年金の被保険者となります。

経営者1人でも社会保険に加入する

法人事業所は1人でも使用者(従業員)がいれば強制適用となります。

労働保険は雇用する労働者がいなければ保険関係は成立しませんが、社会保険は外国人起業家1人で法人を設立した場合でも、法人に使用される者として強制的に加入することになります。

  • 法人の場合、1人で設立した場合でも「法人に使用される者」として強制的に加入となります。
  • 個人の事業所の場合は「5人以上の労働者がいる場合」に強制加入となります。
  • 個人事業主の場合は社会保険に加入できず、国民年金の第1号被保険者となります。

強制適用に該当しない事業所でも、労働者の半数以上の同意を得て厚生労働大臣の認可を受けることで、適用事業所となれます。

適用事業所の判断基準

健康保険と厚生年金保険の資格取得や資格喪失の手続は、年金事務所で同時に手続きされますが、健康保険組合や厚生年金基金の加入事業所は、健康保険は健康保険組合で、厚生年金基金は厚生年金基金で厚生年金保険は年金事務所で手続きします。

社会保険の手続

加入する場合は「新規適用届」を年金事務所に届出します。外国人起業家が1人で法人を設立した場合でも「法人に使用される者」として強制加入で、法人設立日から5日以内に「新規適用届」に次の書類を添付して年金事務所に提出します。

  1. 法人事業所:法人(商業)登記簿謄本
  2. 強制適用個人事業所:事業主の世帯全員の住民票

社会保険の加入義務がない従業員とは

社会保険の適用事業所に使用される者は強制的に被保険者となります。健康保険では年齢に関係なく適用事業所に使用される者に限って、被保険者となりますが厚生年金保険では適用事業所に使用されていても70歳以上の者は被保険者とはなりません。

“使用される者”とは

社会保険の「使用される者」とは、使用関係がある者のことです。

社会保険の使用される者とは使用関係がある者のことで、名目的な雇用関係があっても事実上の使用関係がない場合は、使用される者とはなりません。会社等の法人の理事、監事、取締役、代表社員等の法人の代表者または業務執行者は民法または会社法の規定では使用される者となりませんが、社会保険の適用は、法人から報酬を受けている場合、使用されている者として被保険者となります。

  • 社会保険の適用は、法人から報酬を受けている場合、使用されている者として被保険者となります。
  • 試みの使用期間中の者でも、使用関係が常用的であれば被保険者となります。

個人の事業主は、使用される者とはみなされないため被保険者とはなりません。

適用事業所に使用されていても社会保険被保険者とならず適用除外になる者

次の者は適用事業所に使用されていても社会保険被保険者とならず適用除外となります。

健康保険の被扶養者

業務外事由で被保険者の病気、怪我、死亡、出産に関し保険給付が行われますが、被扶養者に対しても、同様の保険給付が行われます。被扶養者の届出は被保険者が結婚、出産などで被扶養者が増えた場合や就職、死亡などで被扶養者でなくなった場合、被扶養者の異動があった日から起算して5日以内に年金事務所や健康保険組合に届け出ます。

被扶養者は被保険者に生計を維持されてることが必要で、被扶養者の範囲は次のとおりです。

被扶養者の範囲

主として被保険者に生計を維持されている者

  • 直系尊属(直系血族のうち父母、祖父母等)
  • 配偶者(内縁関係も含む)
  • 子(民法上の実子及び養子)
  • 弟、妹

被保険者と同一の世帯に属し、被保険者の収入により生計を維持されている者

  • 被保険者の三親等内の親族
  • 事実上婚姻関係と同じ事情にある配偶者の父母及び子
  • 事実上婚姻関係と同様の事情にある配偶者の死亡後におけるその父母及び子

生計維持の基準

「主として被保険者に生計を維持されている」「主として被保険者の収入により生計を維持されている」とは、以下の基準で判断されます。

認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合

認定対象者の年間収入が130万円未満であり、かつ被保険者の年間収入の2分の1未満である場合

認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合

認定対象者の年間収入が130万円未満であって、かつ被保険者からの援助による収入額より少ない場合

夫婦が共に健康保険の被保険者の場合

夫婦が共に健康保険の被保険者となっていて被扶養者がいる場合、被扶養者の認定では夫、妻のうち年間収入の多い方の被保険者の被扶養者とする取扱いとなります。夫、妻の年間収入が同程度の場合、届出の被保険者の被扶養者となります。

社会保険の報酬と保険料

社会保険料の負担は、各月で徴収され、事業主と被保険者が折半で負担します。保険料額は被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を乗じた額となります。

報酬となるもの・ならないものの区分

計算の基となる報酬は賃金、給料、俸給、手当、賞与など、被保険者が労務の対償として受けるものすべてを含みます。年3回以下の賞与も報酬には含まれません。

6か月の通勤定期券は6で除して1か月当たりの額を求め報酬とし、賞与は、年間を通算して4回以上支給される場合、報酬に該当します。

標準報酬月額と標準賞与額

事業主や被保険者が負担する保険料の額、保険給付の決定は、事業主から支払われる報酬を基礎としていますが、変動的な報酬があると月により保険料の額等が変動してしまいます。変動する報酬は事務処理が煩雑になるので、報酬を段階的に区分した等級に当てはめて標準的な報酬月額を定めています。これを標準報酬月額と言います。

健康保険料率

「協会けんぽ」は、都道府県ごとの保険料率となっています。都道府県別保険料率は、中高年齢層の割合が高い等の年齢構成の違いで医療費の差や所得が低いため保険料率が高くなる等の所得水準の違いがそのまま反映されるのではなく相互扶助や連帯の観点から、医療費・所得水準等の格差を都道府県間で調整した上で保険料率が設定されます。

厚生年金保険料率

公的年金制度は5年に1度の財政再計算に合わせて改正を行っていましたが、少子高齢化が想定を超えるペースで進行してきたため年金給付と保険料負担の関係の見直しが必要となり、平成16年、大幅な改正が行われました。

協会けんぽと日本年金機構

協会けんぽ

協会けんぽは、非公務員型の法人として、新しく設立された保険で、職員は公務員ではなく民間職員です。医療機関で受診した場合の自己負担割合や高額医療費の負担の限度額、傷病手当金などの現金給付の金額や要件などの健康保険の給付内容は、協会けんぽでも、これまでとは変わらないものとなっています。

日本年金機構

日本年金機構とは社会保険庁を廃止し、新たに設立された公法人で、政府が管掌していた公的年金(厚生年金保険及び国民年金)事業を引き継いでいます。日本年金機構は公的年金に係る運営業務(適用・徴収・記録管理・相談・裁定・給付等)を行っています。

外国人起業家と社会保障協定

社会保障協定の目的

日本人が海外に勤務した場合、就労地である外国の社会保険制度への加入が求められますが、老齢給付の年金受給が低額にならないように海外勤務期間中でも、日本の公的年金に継続して加入していることがあります。日本と勤務先国の保険料を二重に負担することになります。

外国の公的年金制度も老齢年金の受給資格の一つとして一定期間の制度への加入を要求している場合があります。相手国に短期間派遣され、その期間だけ相手国の公的年金制度に加入しても老齢年金の受給資格要件としての一定の加入年数を満たすことができない場合が多いため、相手国で負担した保険料が掛け捨てになります。

適用法令の調整

二重負担問題を解決するために、就労地国の制度のみに加入するとして、一時的な派遣者は、例外的に派遣元国の制度のみに加入して、二国間の適用法令を整理しています。

社会保障協定の一時的というのは、通常5年です。派遣期間が5年以内であれば、就労地国と派遣元国の制度とを比較した場合、就労地国よりも派遣元国の制度との関係が深いと考えられ、派遣元国の公的年金制度にのみ継続して加入すべきとされています。

加入期間の通算

社会保障協定相手国の年金制度に加入、一時的に勤務したことがある場合、保険料掛け捨ての問題を解決するために、両国間の年金制度への加入期間が通算されます。

通算された加入期間が年金を受給するために最低必要とされる期間以上であれば、それぞれの国の制度への加入期間に応じた年金が、それぞれの国の制度から受給できるようになります。

社会保障協定の締結状況と内容

社会保障協定を発効するには日本政府と外国政府との間で協定を結ぶための協議や交渉を行うことから開始され両国が協定の内容に合意し署名が交わされます。

外国人が途中帰国した場合の脱退一時金制度

厚生年金保険や国民年金の脱退一時金は、それぞれの年金制度に加入していた外国人が帰国するときの保障となります。

脱退一時金

加入期間が6か月以上で日本国籍を有しない外国人起業家や外国人従業員の外国籍の者が帰国した場合は、加入期間等に応じた脱退一時金の支給を請求できます。

既に年金の受給権を持っている者、障害手当金を受け取ったことのある者、将来の老齢年金を受け取る資格期間がある者は、脱退一時金の請求はできません。

脱退一時金の額

  • 厚生年金保険の脱退一時金の額は、次の計算式によります。

平均標準報酬額 × 支給率((保険料率×1/2)×被保険者期間月数に応じた数)

  • 国民年金の脱退一時金の額は、次の計算式によります。

国民年金の脱退一時金の額は、保険料を納めた月数に応じて支払われます。